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女性先輩研究者よりのメッセージ

食品生物科学専攻 食品生理機能学研究室
2023年 博士後期課程修了
Division of Tissue Crosstalk in Cancer Metabolism, Institute of Diabetes and Cancer, Helmholtz Diabetes Center, Helmholtz Munich

Ng Su-Ping(ン スーピン)さん

『現在の職業を選択した時期とその理由』
私は、肥満と糖尿病のような代謝異常症が世界中で大きな問題になっている背景を受けて食品と健康の関係に対する興味が湧いてきました。食品生理機能学分野では在学中に代謝物と健康の関係について、特に、解糖系から生じるメチルグリオキサールの脂肪細胞機能への関与について研究をさせていただきました。その研究を行った過程で、代謝異常症を引き起こす分子機構について一層興味が深まり、それは肥満現象以外にも、その反対の代謝異常症である悪液質にも関心を持つようになりました。研究課題への興味はもちろんのことなのですが、新卒としての自身の成長のために西洋の思想や考え方に触れてみたく、また、これから男性が圧倒的に多い研究分野での活躍を考えると、女性研究主宰者(いわゆるPI)のモデルにも触れたかったのです。昔から医学研究歴史に大きな貢献をしたワールブルグ博士やレントゲン博士が誕生したドイツに憧れて、ドイツを中心に関連研究室を探しているうちに現在の所属機関に行き当たりました。女性PIも研究員も5割だとわかり、私が夢見るような全ての条件を兼ね備えていましたので、先方に連絡をし、アイデアを交わしてみたところ、運よくお互いに良いシナジーがあり、雇用していただくことになりました。

『現在の職務内容』
ミュンヘンのヘルムホルツ糖尿病センターは、2 型糖尿病と肥満の糖尿病研究、1 型糖尿病の早期発見と排除に重点を置いたヨーロッパ最大の拠点に発展しました。研究所は人材や資源にも恵まれており、糖尿病以外の代謝関連疾患である代謝異常関連脂肪肝炎、サルコペニアや悪液質などの研究にも取り組んでいます。この研究所の一員として、私は自分の研究に専念することができています。現在の研究課題はあるたんぱく質の機能解明をすることであり、研究の進展に応じてそのたんぱく質の上述した代謝疾患への関与の可能性も調べることです。研究テーマの方向がある程度自由に決められ、とても柔軟です。細胞から患者までなどのオールスペックの研究を行うには同僚の力だけでなく、近くにあるミュンヘン大学病院の医師、マックスプランク研究所に属する研究者同士の力も必要であり、今後、共に共同研究をする可能性が高いと思います。いざという時に一緒に研究するためにはオープンな考え方を持ちながら色々な研究に関心を持つことも、皆と良好なコミュニケーションを取ることも仕事の大事な一面だと思っています。

『将来に向けての展望や後輩に向けてのメッセージなど』
現在までずっとアジアに住んでいた自分にとっては初めて社会人としてドイツに来ることは個人的に大きな一歩でした。慣れるまでに最初は色々と大変でしたが、この恵まれた環境にできるだけ研究者として成長し続けていこうと思っています。目標としては、自分しかできないアイデアを発想し、自分らしい研究を研究主宰者として行うことを望んでいます。そうなるまでにはまだまだ道が長いと分かっていますが、この夢が叶うように諦めずに頑張っていこうと思っています。
自分が経験し良かったと思っていたことを後輩の皆さんにシェアすることであれば、夏目漱石の言葉を借りて「己を知るのは生涯の大事」ということです。そうするにはじっくりででも自分の個性をよく知り、自分の軸を決まった型にはまらずに、良い影響になる人に接し、教わることで正しく作っていくことがとても大事だと思います。自分を知ることによって、自分の発見した潜在能力がよりよく発達できたり、磨いた人格でより意味深い繋がりができたりすることになりますので、これらによって将来がより上手くいくと思っています。

農学専攻 蔬菜花卉園芸学研究室
2016年 博士後期課程修了
千葉大学 大学院園芸学研究院植物生命科学講座(花卉園芸学研究室)講師

出口 亜由美 さん

『現在の職業を選択した時期とその理由』
 大学入学前から大学教員になるのが夢でした、と言えると格好いいのですが、入学時も大学院進学時も、現在の職業、すなわちアカデミアでの研究者になろうとは全く考えていませんでした。漠然と研究職には就きたいという考えはありましたが、イメージしていたのは企業での研究職や地方の公務員でした。しかし、研究室で研究を進めていくうちにどんどんのめり込み、運も良かったのかもしれません、面白い結果が次々出て、新しいことを解明する感覚が心地よく、このまま研究を続けたいと思い始めました。修士課程では企業の就職活動にも挑戦しましたが、私にはピタッとくるものがなく見事に惨敗…笑。おそらく面接してくださった人事の方にも私の願望がうっすら見えていたのだと思います。同時期に恩師である当時の指導教員に「これからの時代、女性で働くのであれば研究者(大学教員)はいいかもしれないよ」との助言をいただき、就職活動をスパっと辞めて、博士課程に進学しました。将来の職に不安はありましたが(両親も心配していたと思います)、研究をし続けることが私の就職活動だ!と思い、続けた結果、博士号取得後に約1年間のポスドク期間を経て、今に至ります。

『現在の職務内容』
いわゆる大学の先生で、研究と教育を行っています。花卉園芸学研究室に所属し、学部3、4年生、大学院生とともに、花に関する不思議を解明すべく研究を行っています。研究テーマは、私の学生時代から継続して行っている花の色に関するものもあれば、新しくチャレンジしているテーマもあります。学生の卒業研究、修了研究の指導を行いながら、自分自身の研究も進めること、成果を論文にまとめて発表、新しい研究のアイディア探し、研究費獲得に向け助成金への申請等を行うことが主な仕事です。また、まだコマ数は少ないですが、教壇に立って講義も行っています。中堅になりつつあるので、大学や学部等の委員や所属学会の委員に呼ばれることも増えてきました。教員免許はもっていません。教育活動については、学生は一緒に物事を解明する共同研究者であり、私はこれまでの知識と経験を共有し、研究の加速を手助けする者というスタンスで行っています。
国立大学の教員なので裁量労働制が導入されています。私はこの職に就いてから2人の子供を出産しましたが、この制度のおかげで子育てしつつ仕事ができていると思っています。恩師の助言にはその意味も含まれていたのかもしれません。

『将来に向けての展望や後輩に向けてのメッセージなど』
私は思いもしていなかった職業に就いたわけですが、今はこの仕事が自分に合っていると感じています。アイディアと頑張り次第で、自分の興味のあることを突き詰められます。楽しくて仕方がないです。花という嗜好品が対象のため、とても贅沢な研究をさせてもらっていると思いますが、これを贅沢で終わらせず、花の研究から、マクリントック氏のトランスポゾンの発見のような「生物の新しいメカニズム」を発見することを目指し、邁進していきたいと思います。
私は人付き合いが得意とは言えず、誰かに何かを教える教員なんてできるはずがないと思っていました。しかし、意外にもそんなことはなく今学生との関係は良好と思います。経験値が上がり、いい意味でおばさん化したのかもしれません。このメッセージを読んでくださっている学生の皆様には、合う合わないを早々に決めつけてしまわず、柔軟でいることも一つの道であることお伝えしたいです。大学院で仲間や教員と様々なことを議論し、多くのことを経験してください。思いのほか将来の選択肢は広がっていくと思います。

森林科学専攻 森林生物学分野
2016 年博士後期課程修了
国立研究開発法人森林総合研究所
樹木分子遺伝研究領域樹木遺伝研究室

伊津野 彩子 さん

 私は、樹木がどのようにして様々な環境に適応しているのか、遺伝情報をもとに研究しています。主に、野生の樹木のゲノムを解読し、その種がこれまでに経験してきた個体数変動や、生育環境の変化に応じた遺伝的な変化を推定しています。多様な環境への適応を遂げてきた樹木の歴史を紐解くことで、将来の環境変動に対する樹木の応答を予測し、適切な森林管理・保全策の構築に貢献したいと考えています。
 現在の職業に就いたきっかけは、在学中に所属した研究室で、野外で見られる生態学的現象を遺伝学の手法を用いて研究する「生態遺伝学」に出会ったことでした。ちょうど、遺伝解析技術にブレークスルーが生じた時期で、野生生物であってもゲノム解読を行い、詳細な遺伝機構を研究できるようになりつつありました。もともと興味のあった生態学と遺伝学の両方に携わることができ、技術革新による大きな発展が見込まれるこの学術分野に魅力を感じ、卒業後も研究を続けたいと考えるようになりました。
 修士・博士論文をまとめるにあたり、研究を最後までやり遂げる根気や、論理的思考の大切さを学びました。また、セミナーや野外調査の手伝いを通じて、他の学生の研究に関わる機会も多く、視野を広げることができました。そうした大学院時代の経験は、今の研究活動に活きていると感じています。

<以下の方々は、農学研究科GUIDEBOOKに掲載させて頂いた方です。>

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