English
学科ホームページへのリンク
人類が生存するための第一の要諦。それは食料の安定的な確保です。この意味で、食料の生産を根底で支えている農業は、人間の営みの中で最も崇高にして、最も根源的なものといえます。このような農業(農耕牧畜)は今から約1万年前に始まったと考えられています。人類は、それまでの狩猟採取に比べてはるかに高い人口扶養力をもつ農業という新しい食料調達の方法を発見することによって、飛躍的な発展の道を歩み始めました。爾来今日まで、人類はその時代時代の要請に応じながら知恵と工夫を重ね農業を発展させ、持続させてきました。このような中にあって、農業生産の基盤に関わる工学や技術の進展は、農業生産の場における土地生産性や労働生産性を高める上で大きな役割を演じてきました。京都大学農学部でも1923年の学部創設の当初から工学系の学科(当時は「農林工学科」、後に農業に特化した工学系学科として「農業工学科」が誕生)が設置され、農業の生産性を高めるための工学的・技術的な方策や方法論について、先進的な教育・研究が進められてきました。人類の生存に関わる全地球的課題が顕在化するようになった20世紀末、新たなパラダイムへの転換が求められ、工学系の分野においても、研究の基本的手法や問題意識を「環境」という、より包括的で今日的な枠組みの中で再構築することが必要となってきました。このような背景の下に2001年に誕生した学科が地域環境工学科です。
「地域」とは「農業・農村地域」を指します。つまり、農業生産活動が行われ、農村生活が営まれている空間が「地域」です。近年では、豊かな生物資源に恵まれ,農業が食料生産という本来の機能のほかに、国土や自然環境の保全といった面で多面的な機能を発揮していることなどから、農業・農村地域が都市よりも優れた特性をもつことが広く認識されるようになりました。農業・農村が持続的に発展するためには、自然環境との調和に配慮しながら、地域における重 要な環境基盤である水、土(土地)、生産管理システム、農産物の収穫・加工・貯蔵システムなどの生産環境、農村地域における生活環境を適切に整備・保全するとともに、バイオマス・エネルギー開発など農業・農村地域がもつ固有の資源ポテンシャルを積極的かつ賢明に利活用(ワイズユース)することが基本的に重要なこととなります。自然環境との調和に配慮するとは、生物・生態系、景観などにも生存の権利を認めながらそれらとの調和を図り、人類の生存に必要な食料生産やエネルギー開発のあり方を考えることを意味します。「地域は地球の細胞」であり、地域の環境を健全な状態に整え維持することが、地球環境の保全にとっても重要です。このような農業・農村の姿を現実のものとするには、自然科学から社会科学に及ぶさまざまな分野を包摂する学際的な基礎科学の上に立って、応用科学である工学や技術学を展開することがきわめて重要なこととなります。以上のようなパラダイムの下で農業・農村地域を科学する分野、それが地域環境工学です。工学的・技術的な体系としての地域環境工学が、人類の生存に関わる農業・農村問題や環境問題、食料・エネルギー問題の解決に向けて、大きな役割を果たすことが期待されています。
本学科における教育は、7つの研究分野が主体となって行っています。これらは大きく「水・土・緑系」の4分野と「食料・エネルギー系」の3分野から構成されています。1~2回生では、まず地域環境工学の基礎的・全般的な内容について学び、3回生では4回生時に分属する分野を念頭に置きながら、該当する系に関連する科目を中心に学習します。
「水・土・緑系」では、水、土、緑に働きかけて生産・生活・自然空間が織りなす地域の環境を工学的な手法によって、より豊かに、より美しく創造・改良し、保全するための理論とそれらを実現するための技術方策を学びます。そのために、国土や環境の保全を視野に入れた地域における水利用、土地利用のあり方を学ぶとともに、これらを具体的に実現するための各種構造物の計画・設計・施工・維持管理について学びます。
「食料・エネルギー系」では、自然環境はもとより、地球環境、資源の循環、省力、省エネルギーなどに配慮した食料の生産管理・収穫・加工・貯蔵、バイオマス・エネルギー開発などのあり方とその基礎原理、さらにはそれらを実現するための技術と手法を学びます。そのために、対象となる生物資源について学ぶとともに、情報処理、システム設計、生物を対象とする計測・センシング技術、機械設計、メカトロニクス、農産物の物性と非破壊品質評価・加工技術を学びます。
各分属分野のキーワード