食品生物科学科

本学科は、食品の開発や生産に関わる高度の技術者・研究者を育成することを目的として平成13年度に設置されました。

人間は、毎日食事をしなければなりません。したがって、どの時代にも食品に関わる科学は重要ですが、今日、特にその必要性が高まってきました。日本では年間70兆円が食に使われており、食品産業は最も巨大な産業の一つです。また、最も変化に富む産業でもあり、これを支える柔軟な学術基盤が必要です。食の多様化・産業化に伴って、食品開発や製造技術は著しく複雑・高度化し、多くの分野の知識の結集が必要となってきました。

食品の分野は、従来の農学分野のみならず、より広範な分野、たとえば遺伝子・酵素、発酵・腐敗、保蔵・流通、品質管理、味覚、健康、疾病、アレルギー、栄養、スポーツ、生理学、社会学、環境、心理学など、周辺の多くの事象や分野と密接なかかわりを持っています。これまでの細分化された学問領域の中でこのような幅広い教育・研究を行うことはとても不可能です。新しい時代に対応するために、食品を中心とした新しい教育・研究システムを作り出す必要があ ります。

一方、日本の食料自給率は先進工業国では際だって低く、自国の食料を他国に依存する危険が指摘されています。また、日本の伝統的な食生活は崩壊しつつあり、西洋型生活習慣病の増加が深刻になってきました。さらに、日本の文化を守るという意味でも食料の自給は切実な問題です。海外には、飽食の国もあれば、飢餓に直面している国や民族もあります。食の周辺は、決して単純ではありません。グローバルな視点での食のあり方を考え直し、科学的な対処を考えるべき時代に来ていることは明らかです。

このような多くの問題を解決する目的で、新しい専門の学科の開設が望まれてきました。そこで本学部・応用生命科学科の中で、これまで食品の教育・研究を担ってきたいくつかの食品関連分野と、食糧の研究に業績のある京都大学食糧科学研究所とが母体となり、食品を専門に教育・研究する本学科が新たに設立されたわけです。

食品の原料の多くは生物体です。それを摂取する人間も生物であることから、本学科の名称は食品生物科学科となっています。しかし、決して、生物学のみを中心とした狭い学問分野ではありません。食品の科学には、化学、物理学、生化学、あるいは、いわゆる文科系の学問も必要です。本学科は、生物学が得意な人のためにあるのではありません。むしろ、できる限り幅広い分野の集合体として、多くの知識を結集して食品を創成しようとするものです。学科の中で、それぞれが得意な分野を見つけ、食品の科学に生かしてゆくことが理想であると考えています。

本学科は、次の3つの視点から食品について教育・研究しています。

  1. 食品の研究を通じて生物・生命を理解する。
  2. 生物・人間を研究することによって、人間にとってよりよい食品を創成する。
  3. 食品の効率的な生産に寄与する技術を集積する。

これらの視点が相補って、新規の食品の科学を形成してゆくものであることは言うまでもありません。具体的には、表にキーワードで示すような、研究分野と研究内容があります。

この教育目的に沿って、1,2年生の間には、専門教育の一環として、生化学、有機化学、物理化学、分子生物学などを系統的に教育します。3年次からは、より具体的で専門的な講義を行うとともに、体系的な実験法の指導プログラムによって高度の実験技術を身につけるように指導します。企業からも非常勤講師を積極的に招聘し、学生の視野を広げたいと思います。新しい、食品の科学の創成に向けて、人間の幸福に寄与することができるように、努力が進められています。

各分属分野のキーワード

分野 キーワード
栄養化学 栄養素の代謝、美味しさの脳科学、運動と食品、肥満と栄養
生体情報応答学 天然物からの有用な生理活性物質の単離・同定
外部刺激に対する動物細胞・個体の応答現象の解明
生命有機化学 食品因子の標的分子と作用メカニズム、ペプチド化学、生態機能性分子の合成、天然生物活性物質の化学
農産製造学 食品をエンジニアリングする、不飽和脂質の酸化を防ぐ、酵素や微生物で食品を作る、食品の吸収過程を探る、食品成分を分ける
酵素化学 酵素活性の驚異、モノクローナル抗体の分子認識、活性酸素を利用する酵素、酵素の構造設計と機能創造、医薬・食品工業への酵素利用
食品分子機能学 食品アレルギーとアレルゲン、コレステロール代謝制御機構、タンパク質生合成の品質管理、低アレルゲン食品の開発、生活習慣病と脂質代謝
食品生理機能学 食品の生理機能、生活習慣病の予防、食品由来生理活性ペプチド、高機能タンパク質の設計と生産
生物機能変換学 微生物機能改変・代謝工学、タンパク質高次機能・機能相関、遺伝子・タンパク質分子進化、食品分子設計、物質・情報輸送機構
食環境学 味刺激情報の科学、未利用食糧資源の高度利用、自然免疫のストレス・環境応答機構、消化管内環境の科学