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農学研究科と東南アジア研究所、マレーシア森林研究所との連携を強化:45年来の交流を経て協定締結

投稿日: 2014-07-17

 京都大学農学研究科と同東南アジア研究所は3日、マレーシア森林研究所(FRIM)との共同研究を加速するため、FRIMを運営するマレーシア林業研究開発委員会(MFRDB)と学術交流協定を締結しました。今後は、熱帯林における水・炭素・メタン循環の調査、森林利用・管理が地域社会に与える影響の評価などをとおして、森林環境・水文学の研究とそれに伴う人的交流を更に進める予定です。

 FRIM との交流の歴史は、約45年前にまで遡ります。1970年頃、FRIMと京都大学、大阪市立大学などが、文部科学省の国際生物学事業計画(IBP)の一環として、マレーシア・パソ保護林を調査し、東南アジア熱帯雨林の生産力を初めて明らかにして以来、協力して熱帯林生態学の発展に貢献してきました。

 1992年には、熱帯林減少の環境影響を評価するため、FRIM の全面的な協力を得て国立環境研究所・森林総合研究所を中心とする地球環境研究総合推進費によるプロジェクトが立ち上げられ、農学研究科の武田博清名誉教授(森林生態学、現在同志社大学教授)、谷誠教授(森林水文学)、神崎護教授(森林・人間関係学)らが、パソ森林保護区やブキタレ水文試験地などで調査を始めました。

 パソに設置されたタワーにおける森林・大気間の水・炭素交換量の観測は、現在では、農学研究科の小杉緑子助教(森林水文学)をリーダーとし、生態水文学に関する総合研究に発展してきました。この研究では、温室効果の大きいメタンその他のガス交換も対象としており、農学研究科のみならず東南アジア研究所や森林総合研究所等の研究者から成る協力体制が確立されています。

 調印式に出席した谷教授は「多くの先人や友人たちのおかげで、これらの成果が上がり、協定の締結に至った。FRIM においては、1992年の共同研究開始時に所長であった Tan Sri Dr Salleh Mohd Nor や当時の森林水文研究室長で現マレーシア自然資源環境省次官の Datuk Dr Abdul Rahim Nik をはじめ、研究面で Dr Abd Rahman Kassim、Dr Siti Aisah Shamsuddin、観測面で Mohd Md Sahat 氏、Ibharim Hasim 氏ほかから多大なご協力をいただいた。さらに、広島大学の奥田敏統教授には、20年以上にわたってプロジェクトを牽引いただいた」とし、関係各位への深い感謝の意を表しました。

 谷教授は、2002年以来のパソのタワーでの観測によって得られた蒸発散や炭素固定量の変動特性(Yoshiko Kosugi et al., Journal of Forest Research: 2012 [アブストラクト和訳])に触れ、これが東南アジア熱帯林における世界で初めての長期観測成果であること、地球環境変動の予測とその検証研究においてパソでの継続観測が今後も重要な役割を果し続けてゆくことを説明しました。

 また、熱帯林の伐採・利用といった活動の環境負荷などを評価するにあたり、社会科学も含めた学際的アプローチが今後ますます重要となることを強調した上で、FRIM・東南アジア研究所・農学研究科が協定を結ぶ意義と今後の発展への期待を述べました。

 本協定は、Dato’ Dr Abd Latif Mohmod FRIM 所長、宮川恒 農学研究科長、河野泰之 東南アジア研究所長が署名し、Dr Siti Aisah Shamsuddin FRIM 生態水文学プログラム長、谷誠 農学研究科教授、松林公蔵 東南アジア研究所副所長が証人となり、2014年7月3日付けで締結されました。

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左から、調印後の Dato’ Dr Abd Latif Mohmod FRIM 所長と谷誠 農学研究科教授(写真提供:FRIM)

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左から、Dr Khali Aziz Hamzah FRIM 技術部門長、Dr Siti Aisah Shamsuddin 同生態水文学プログラム長、Dr Ismail Harun 同森林環境学部門長、Abd Latif 同所長、谷誠 教授、北島薫 農学研究科熱帯林環境学分野教授、(前列)小杉緑子 同森林水文学分野助教、鎌倉真依 同森林水文学分野JSPS特別研究員、Marryanna Lion FRIM 生態水文学プログラム研究員、(後列)伊藤雅之 東南アジア研究所人間生態相関研究部門助教、奥村智憲 農学研究科森林水文学分野研究員、高梨聡(独)森林総合研究所気象研究室主任研究員、野口正二 同水資源利用担当チーム長(写真提供:FRIM)